臍帯を活用して治療できる病気

臍帯を活用した医療技術は、今後さまざまな疾患の治療に役立てられる可能性があるといいます。一般財団法人 ユニバーサルコード 委員長で東京大学医科学研究所附属病院 セルプロセッシング・輸血部 准教授、同部長の長村 登紀子先生に伺います。

目次

新たな細胞治療の可能性のある疾病 (国内外の臨床研究状況)

  1. 重症急性移植片対宿主病(国内第Ⅰ相)
  2. COVID-19に伴う急性呼吸窮迫症候群(国内第Ⅰ相)
  3. 造血幹細胞移植後の非感染性肺合併症(国内第Ⅱ相)
  4. 新生児脳症・脳性麻痺(国内治験準備中)(海外第1相)
  5. 新生児慢性肺疾患(国内準備中)
  6. 糖尿病(海外臨床試験)
  7. 心筋梗塞(海外臨床試験)
  8. 肝硬変(海外臨床試験)
  9. SLE、リュウマチ等膠原病(海外臨床試験
  10. 炎症性腸疾患(基礎検討中)
  11. 血球貪食症候群(基礎検討中)

近年注力されている治療研究

重篤な移植片対宿主病(GVHD)の治療に、臍帯からとれるMSC(臍帯由来MSC)が活用できることがわかっています。

GVHDとは、造血幹細胞移植が行われた患者さんに起こる合併症です。この疾患は、移植された造血幹細胞(移植片)が、移植された患者さん(ホスト(宿主))の体の中で、生着して増殖する過程で、リンパ球が自分の体ではないと認識して過剰に攻撃して炎症をおこすものです。GVHDを予防するために免疫抑制薬を予め投与しますが、それでもGVHDが生じることがあります。症状は、主に皮膚(発疹、かゆみ、紅斑など)、消化器(下痢、嘔吐、腹痛など)や肝臓(肝機能障害や黄疸)に現れ、重症の場合には患者さんの命にかかわります。治療は、ステロイドが一般的ですが、こうした免疫抑制剤は、感染症のリスクが高めてしまいます。これまでの国内での第1相医師主導治験において、7例の重症GVHDの患者さんに臍帯由来MSCが投与され、その安全性と一部の患者さんでの有効性を認めましたが、投与により感染症のリスクが上がったという副作用は認めませんでした。

一方、新型コロナウイルス感染症の時に認められた急性呼吸窮迫症候群(ARDS)も、過剰な炎症反応が主な病態ですが、このARDSを発生した患者さんにも臍帯由来MSCが投与されました。感染症ではない、過剰な免疫反応によって引き起こされた肺炎(非感染性肺合併症)にも、治験が行われてします。こうした非感染性の肺炎も臍帯由来MSC活用を推進すべき大きなターゲットと考え、研究を進めています。

何科のドクターの間で研究や実用化が進んでいる?

臍帯を活用した細胞治療を躊躇する医療従事者もまだ多いといえます。おそらく静脈注射を用いて治療薬などを投与するうえでの安全性に確信が持ちづらいのだと思います。その中で、血液内科医は薬剤の静脈注射による治療の経験も豊富なので、細胞医療への抵抗感は少ないと思っています。

<監修医師>
一般財団法人 ユニバーサルコード 委員長 
長村 登紀子先生

東京大学医科学研究所附属病院 セルプロセッシング・輸血部 准教授、同部長

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