世界の臍帯研究事情

世界における臍帯医療の研究について、一般財団法人 ユニバーサルコード委員長で東京大学医科学研究所附属病院、セルプロセッシング・輸血部 准教授、同部長の長村 登紀子先生に伺いました。

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臍帯研究が最も進んでいるのは?

臍帯に関する研究がもっとも進んでいるのは中国ではないかと思います。

ヨーロッパも、もともとスウェーデンやスペインで胎盤の研究が進んでいたこともあり、追随している印象ですが、ヨーロッパでは骨髄移植が盛んに行われてきた流れもあり、臍帯の医療活用への切り換えがスムーズに進まない地域もあるのではないかと予想しています。

日本が先行している研究はIPS細胞

対して日本は、IPS細胞(人工多能性幹細胞」(Induced Pluripotent Stem Cells))の研究が先行していました。

IPS細胞は、2006年に日本の研究者である山中伸弥氏によって初めて作製された細胞であり、幹細胞の一種です。成体の体細胞(例:皮膚細胞や脂肪細胞など)を特定の遺伝子を導入して再プログラムすることで、他の様々な細胞型に分化できる(=多能性を持つ)幹細胞に戻すことができます。

IPS細胞は、使用において倫理的問題があるといわれる“受精卵から取れる胚性幹細胞”(ES細胞)※にとって代わることができるため、幹細胞研究において非常に重要な役割を果たしています。

胚性幹細胞(ES細胞)の倫理的問題

受精卵の初期の段階に細胞が分化して内部細胞塊と呼ばれる集団が形成されますが、胚性幹細胞は、この内部細胞塊から取得されます。しかし、胚の取得には倫理的な問題があり、多くの国や地域で厳格な規制が設けられています。IPS細胞の作製により、胚性幹細胞と同等の多能性を持つ細胞を個別の患者から作成できるようになりました。これにより、特定の患者に適した細胞を生成し、その細胞を利用して再生医療や治療を行う研究が進んでいます。IPS細胞の作製には、胚を使用する必要がなく、倫理的な問題を回避することができるため、幹細胞研究における重要なブレークスルーとなりました。

今後期待される、日本における間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells)研究

対し、MSC細胞は、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells)の略称。間葉系幹細胞も、多能性の幹細胞の一種で、成体組織に存在する特定の細胞です。

MSC細胞は、骨髄や脂肪組織、臍帯、臍帯血などから採取されます。これらの細胞は自己複製能力を持ち、異なる組織や細胞に分化することができます。

MSC細胞は骨や軟骨の再生、心筋梗塞後の心臓の修復、脳損傷後の脳組織の回復など、様々な臓器や組織の再生・修復に寄与する可能性があります。また、MSC細胞は免疫調節作用も持つので、自己免疫疾患の治療や移植拒絶反応の抑制にも利用されることもあります。

国策的にIPS細胞の研究を進めていたので日本ではIPS細胞の活用技術が先行していますが、MSC細胞研究に今後、より注目が集まっていくのではないでしょうか。

<監修医師>
一般財団法人 ユニバーサルコード 委員長 
長村 登紀子先生

東京大学医科学研究所附属病院 セルプロセッシング・輸血部 准教授、同部長

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