幹細胞の美容注射や美容液は、効果があるの?

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間葉系幹細胞は、細胞に“異常”がないと働かない?!

間葉系幹細胞は、体の細胞に何等かの問題があったらそこを修復しようと初めて働くので、実は、細胞に異常がない場合は働かないともいえるのです。組織が壊れている、とみなすときに初めてそれを治そうとするのです。したがって、たとえば、お肌のエイジングケアなども、細胞が損傷しているというレベルのダメージではないので、間葉系幹細胞を活用した美容液や注射がお肌をきれいにするといった効果は、そこまで劇的に現れるとは考えづらいです。

試験管の中で何も異常のない細胞と幹細胞をあわせても何ら作用しないですし、健康な状態の生き物に幹細胞を投与しても、異物=不要なものとみなしてしまい、具合が悪くなるという可能性もあるんです。

低体重のラットに臍帯から採取した成長因子(グロースファクター)を投与したところ、ラットの筋肉細胞などに異常があるわけではないゆえに、むしろラットの体調が悪くなったという実験もあるくらいです。

脂肪由来の幹細胞は、ほかの組織になることはない?

幹細胞を投与することに、副作用がないとは言い切れません。美容の治療でヒトの脂肪の幹細胞を採取してエイジングケアで使用することもあるようですが、脂肪の幹細胞は脂肪の増殖には寄与するかもしれませんが、臍帯から取る幹細胞のように、どんな細胞にも変化できるものではないので美肌への効果については慎重に検討されるべきです。

脂肪由来の幹細胞での医療事故も

自分の脂肪由来間葉系幹細胞を点滴によって投与された後に、肺動脈塞栓症を引き起こして死亡したという医療事故もかつて起こっています。静脈注射した幹細胞の8割がまず肺に集まると言われます。脂肪の幹細胞は肺や血管といった他の組織の細胞よりもサイズが大きいこともあり、その大きな細胞が肺において望まない作用を及ぼすなどといった危険がないとは言い切れません。

今後、間葉系幹細胞による医療の研究が進化すれば、その恩恵に授かれる疾病の幅も広がることが期待されます。しかし、十分な検証なきまま、専門知識のないドクターが臨床に間葉系幹細胞を活用してしまうことを許せば、想定しない事故も起こりえます。医療を大きく進歩させる技術だからこそ、拙速に活用範囲を拡げる前に、十分な治験を重ね、世に出していくことを、すべてのステークホルダーが肝に銘じるべきです。

<監修医師>
一般財団法人 ユニバーサルコード 委員長 
長村 登紀子先生

東京大学医科学研究所附属病院 セルプロセッシング・輸血部 准教授、同部長

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